草苅事件振り返り&かっこ悪い小ネタ解題

ご無沙汰しております。フジタです。

ここのところいろいろバタバタで疲れ切っております。疲れ切ってない時期なんかフジタにはないのですけれども。

さて、しむじゃっくpresents劇団肋骨蜜柑同好会『草苅事件』がおわってからもう一ヶ月以上経過してしまいました。放置状態のブログをどうしたらいいのか……

気が向いたときにやる小ネタ解題の時間です。かっこ悪いのでみたくないひとはみないでね。

・タイトルは「ソーカル事件」より。草(そう)苅(かる)事件、です。草苅亜嵐はアラン・ソーカルから。ソーカル事件についてはウィキペディアとかみてください。ひとまず。ソーカル事件×芥川龍之介の『藪の中』(黒澤明監督の『羅生門』)×実在の文芸スキャンダルいくつか、というキメラでした。参照にしたのは、まず、2016年の三島由紀夫賞受賞会見。蓮實重彦が会見時に「受賞は不適切で迷惑だ」とぶち上げて話題になったあの会見です。講評委員が町田康で、非常に面白いのでこちらも是非観て欲しい。それから、半落ち事件。横山秀夫が『半落ち』で直木賞に落ちたときに巻き起こった一連の騒動から、「直木賞決別宣言」に至るまで。このへんをサンプリングして作りました。
・ここからは登場人物順に。平田は、平田です。愛造ではないと思う。魂を共通する別個体。平田という名前の由来は江戸川乱歩の「陰獣」に出てくる平田一郎からです。よく喋る丸めがねぼさぼさ頭のコミュ障オタクメタ探偵。後半のスーパー平田タイムマジで書くの大変だった。藪の中、というか、羅生門の下人。
・五味川龍太郎の名前の由来はもちろん、芥川龍之介。芥=ゴミ。藪の中的には多襄丸。キャラクター性はむしろ多襄丸あわせですね。破滅型で弱い自分を糊塗するために悪ぶった行動を取る。このキャラクターだいすき。どうしようもないクズだけど。ここのところ愛の技巧、遠き山に、草苅事件と三作連続アル中が出てきていて、相当僕の中で酒が大きい問題なんだと思います。候補作「洗礼」は遠藤周作感ある。
・横山征夫の由来は横山秀夫。半落ちの作者です。優等生。元会社員。下の名前は三島由紀夫から。最初もっとエゴ丸出しだったんですけど、最終的に芥川賞決別宣言を書くに至った流れをたくさん想像して、そっちに寄せました。むずかしい。ほんとむずかしい。平田、清掃員、横山、が三通りの未来。候補作「午前十時のぬけがけ」も半落ちとか東野圭吾とか池井戸潤とかあのあたりの、社会派ミステリー的な作風をイメージ。
・川上真理子の由来は川上弘美と林真理子。結構みんな川上未映子を想像したみたいですが、僕の中では弘美のほうでした。候補作「竜の棲む」のタイトルも「蛇を踏む」を意識した音で。候補作三作の中で一番出演者陣の評判が分かれた(誰も読んでないけど)作品。川上-南方ラインの話を書くのはバランス感覚難しかった。『半落ち』事件に関わった林真理子さん、最後の最後で横山氏の読者もまとめてやり玉にあげてしまったので結果的に決別宣言を引き出すトリガーをひいてしまった張本人ですね。
・瓦山鈴女の名前の由来、これ分った人居たらすごいと思うんですけど、元ネタはジャン・ブリクモンです。アラン・ソーカルと一緒に『知の欺瞞』を書いた人。ブリクモン=Bricmontを、Bric(k)=煉瓦=瓦の、mont=山と解釈して瓦山。ジャン=雀=鈴女です。舌切り雀、お宿は何処じゃ。雀のお宿は藪の中。鵺で有り薮そのもの。「野巫」(やぶ)とは野良巫術医のこと。でたらめな祈祷しかできないヤブ医者のことです。物語が壊れ、瓦礫の山と化したその山の、塵塚の王。「お読みになっていただけたんでしょうか」は蓮實重彦が件の会見で本当に記者に向かって言い放った言葉です。
・樋口一代は、樋口一葉。特にキャラクター性とかいろいろに引用はないんですけど、ともかく原田や川上との関係性が先にあった感じ。現代の女性の生き方はたくさん形がありますが、その礎を作ったのは間違いなく明治期に活躍した女性たちで、青鞜社とかのメンバーでもよかったのですが、樋口一葉の生活者としての側面、誇りと赤貧との間で揺れ動いた生々しさ、そして作家として生前大成功したとは言い切れないその短い人生、そのあたりが、樋口のジャーナリストとしての生き様を補完する材料となればなあと思って名付けました。
・原田美嘉の名前の由来は『恋空』の作者、美嘉です。田原美嘉。あるくケータイ小説。現代っ子。バカでいいやつ。底抜けのバカは人類を救う。物語を信じる力。平田が平らげた地平で、一人で立っている女。訳ワカンナイ理屈を信じさせるパワーが、依田さんにあってほんとうによかった。
・小田島哲夫の由来は、コラムニスト小田島隆と、2016年三島由紀夫賞の会見で最後まで蓮實重彦に食い下がった読売新聞の鵜飼哲夫さんにあやかりました。THE記者、といったステロタイプなキャラクターでしたが、その怒りと、矛盾する権威主義と、一番ちゃんと人間的で、素敵なキャラクターになったとおもいます。羅生門が荒廃して都が落ちぶれたことと、新聞社が権威主義になっていったことを結びつける補助線が薄くなって、小田島さんの「前こんなんじゃなかったじゃないですか」の台詞だけが楔だったので、負荷が大きかったと思います。
・津島修平の元ネタは津島修治、つまり太宰治です。太宰感あんまりなかったですね。とにかく五味川、つまり芥川龍之介に憧れるひととして描きました。太宰治は学生の頃ノートに芥川の似顔絵とか名前とかたくさん書き殴っていたくらい芥川信者で、芥川賞がとれなかったことをとてもとても悲しんでいました。平田を演じたふくしくん曰く、「実は一番やばい奴」。僕もそう思う。藪の中的には旅法師。実は多襄丸と知り合いだった、という解釈があるようです。
・選考委員長古淵健、元ネタはもちろん、町田康です。町田の隣駅で古淵。二人併せて健康。バカみたいな名付けですがかなりお気に入りで、今回の胆となる長台詞を担っていただきました。結果とてもお客様にも人気でよかった。町田康のあのあけすけな物言いと、権威とエゴの間で揺れ動きながらそれでいて屈託のない、あの感じ、ちゃんと出せて良かったです。僕はパンクロック大好きマンなので、あの「パンクってそういうことじゃないんですよ。適当なこと言わんといてもらえますか?」に毎回しびれてました。
・南方三郎は北方謙三です。『半落ち』事件で最初に横山氏に問題提起したひとです。実際の北方謙三氏はあんなに嫌な奴じゃないと思います。今回ヴィランがかきたくて、ちゃんと悪役にしたくて、悪役にも悪役の人情がある、みたいな感じではなく、悪役は悪として悪の矜恃に殉ずるべきだと僕は思っているので、最後までハードに、ただ嫌な奴みたいになったけど、僕はあのキャラクター、好きです。まあ、これがディズニー映画なら高い塔の上から落ちて死ぬタイプの人だと思います。あと現実に居たら仲良くなりたくないし、あんまし居て欲しくない。
・吾妻大介の元ネタは東浩紀と津田大介。なんだこの組み合わせ。ポストモダン批判の歴史をかさっと軽くなぞるって言うのが今回のプロットなので、東浩紀ははずせないかなと。草苅亜嵐の最初の標的。日本で唯一の詭弁役者淺越岳人さんに存分に意味不明の詭弁を弄していただきました。あの謎の評論大好き。あと基本小物。ディズニーで言えばル・フゥ的な。ライオンキングのハイエナ的な。
・渡会理砂は、綿矢りさですね。最年少で芥川賞候補にしたかったので、十一歳で文壇デビューという無茶な年齢設定にしてしまいました。藪の中的には真砂です。だからどちらかといえばキャラクターは京マチ子ですね。今回杏奈ちゃんの眼が評判でぼくは嬉しい限りです。狂気の人。抑圧と鬱屈の人。孤高の天才。僕の最近の作品、お母さんとの関係がこじれてる子供がたくさん出てくるんですけど、僕自身は両親との関係は普通です。良好です。いつもありがとう。
・渡会治子は、太田治子(太宰治の娘)から。これもちょっと元ネタ難しかったですかね。清田洞爺の孫で、自分には文才がなかったが商才があり、祖父の著作を管理したりしてお金を稼いでいます。毛総文芸振興会を作るなど野心もある。(ちなみに、清田洞爺「きよたとうや」というのは、清田を「せいた」と読みかえ、洞爺を「とうじい(たふじい)」と読み替えると……)娘に文才があったので、芥川賞作家養成ギブス(謎)をつけて教育しました。藪の中的には媼、真砂の母です。娘を守るために嘘(物語)を語る。
・松本清子は松本清張です。強いエゴがあり、そのエゴを閉じ込めるための秘密があり、っていう松本清張っぽい感じのキャラクター。動機はしょうもない感じですが。勝手に松本清張って元編集者だと思い込んでいたんですが、横溝正史と混ざってたっぽいですね。失敗失敗。でも松本清子って松本清張っぽさありますよね。川上が怨み節だったのに対して清子はヒステリー。僕はなんだかんだこういう女性大好きです。最高。あと眼鏡。めがねです。藪の中的には放免。多襄丸を悪人にしたくてしょうがない。
・黒澤っていう名前は僕かなり好きで、肋骨に何度か出してると思うんですけど(記憶が曖昧だけどたぶん二回?)今回に関して言えば黒澤明の黒澤です。解釈者。演出家。事件を物語にしたひと。藪の中的には木樵。第一発見者であり、小悪党。
・清掃員。全知全能です。肋骨では恒例の神様。物語を掃除しに来る人。きれいになって明日を迎えましょう。それでは、さようなら。

・会議は踊る、から、懐疑は踊ると意味をすべらせ、踊るなら何の曲だろう、といろいろ考えたんですけど、おしゃれな曲じゃない方が良いなと思ったんです。で、夏だし、暑いし、嵐がほしい。ガルシアマルケスだったか、ボルヘスだったか忘れましたが、寒い地方で執筆してたとき、文章に暑さが足りないといって暖房がんがんに炊いて室温40度くらいで執筆してたってエピソードを思い出したりなんかして、そうかマジックリアリズムか、なら、ラテン音楽だろうと。腰から動く人生の音楽。それこそ、ルンバ、ルンバだ。掃除機だし、ちょうど良い。

まあそんな感じで書きました。まとまらなかったし喋りすぎた気もする。でも足りない気もする。

>12月は犬の話です。さあ、こんどはどんな作品にしようかな。

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