こやいり

 おはようございます。フジタです。
 珍しく僕がこんなに早起きなのは、今日が小屋入り日だからです。衣装を洗濯し、乾燥機にかけています。
 持っていくものがたくさんあります。いまから準備します。
 思えば、本当につらく長い道のりでした。一カ月足らずの製作期間で、こんなにもしんどいとは。しかも再再演なのに。
 『つぎとまります』という作品には、当時の僕のすべてがありました。でも、僕は別にあの作品を、心底おもしろいとは思っていなかったのです。
 今回改めて読み直してみて、やっぱりこう思いました。「まあ死ぬほど面白いというわけじゃない」
 この作品は、面白くないかもしれない。でも、やらなきゃいけない。やらなきゃしんじゃう。そういう、ぎりぎりの、がけっぷちの、死に物狂いの叫びが、あの作品にはあった。それが結果的には評価された、のだと思っています。
 今回、おもしろいからやってください、といわれて、僕は困惑しました。逆に困りました。
 死に物狂いの叫びを、「おもしろい」という命綱につないだら、おもしろくなくなってしまうのじゃないか。
 その恐怖のなかで、手探りで制作をつづけていました。共演の渚さん、スタッフおよび劇団員一同、たぶんみんな不安にさせたと思うんです。ひとえに、僕の迷いが、作品の軸を無限にぶれさせていた。ごめんなさい。
 でも。
 迷ってよかったよ。迷ってよかった。
 ぶれぶれでよかったんだ。
 結果的に僕たちは、またこのがけっぷちに立つことになりました。
 おもしろくない、かもしれません。これは。でも、やらなきゃいけない。やらなきゃしんじゃう。
 そのギリギリの、どうしようもない、血反吐を吐くような思いだけが、真実です。不安と、消滅願望と、それと裏腹の自尊心、その合間で揺れ動く痛み、悲しみ、布団をかぶって永遠に寝ていたい、そういう思いだけが、本当なのです。
 そういう本当が、ここにある。と、僕は今思っています。
 小屋入りです。
 そろそろ、乾燥機も止まるでしょう。闘争が始まります。
 あなたのご来場を、こころより、お待ち申し上げております。
 さあ、征こうか。

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