これは自粛ではない

タイトルはマグリットのパクリです。お世話になっております。劇団肋骨蜜柑同好会のフジタです。

この度我々劇団肋骨蜜柑同好会は、6月3日~6月7日に下北沢駅前劇場にて上演予定の第13回『草苅事件・第二版』の全プロジェクトを戦略的撤退とすることにしました。
平たく言えば中止です。延期でもなければ、無観客配信でもありません。『草苅事件・第二版』は日の目をみることなく永久に失われました。R.I.P.

対外的には一ヶ月程度ほぼ完全に沈黙していたので、おおかた予想されていたかもしれません。
楽しみにしてくださった方に申し訳ない気持ちは大いにあるのですが、今回の件に関しては我々は全く悪くないので謝りません。

劇団肋骨蜜柑同好会は、今年で旗揚げ十周年を迎えます。気合いを入れて臨んだ、駅前劇場でした。無念でないと言えば嘘になります。残念無念。でもそんなウエットな話はどうでもいいっちゃどうでもいいわけで。

せめてもの供養として、まだ公開されてなかった情報を出しました。いつものおもしろ割引、チラシデザイン、配役などなどなど。ね、おもしろそうでしょ?こんなおもしろいこと、考えてたんですよ。僕達。

理由なんていくら語ったって虚しいだけですが、ひとつだけ言っておきたいことがあります。僕らが公演をやめたのは、「やめた方がおもしろい」と思ったからです。語弊を恐れず言えば。そりゃもちろん、それだけじゃないですよ?安心して稽古できない状況、出演者や関係者だけでなくお客様も危険に巻き込んでしまうということ、見えない先行き、作品の前提となる「文学賞の記者会見」なるものが現状既にファンタジー世界の出来事と成り果ててしまっていること……あげればキリがありません。考えれば考えるほど、やらない理由ばかり見つかる数ヵ月でした。しんどかった。

それでも我々はギリギリまで諦めないつもりでいました。『草苅事件』という作品の持つ力を信じ、この不安が蔓延している今だからこそ、必要な演劇、必要な物語であると信じていました。何故やるかじゃない、やるからやるんだよ、と自分を鼓舞し、そのためのガイドラインの作成や衛生用品の手配、上演方法の検討など、やれることは全部やったつもりです。最終的にこの判断に至ったのは陽性者数の減少速度が我々の基準より緩やかで、上演の安心安全を確保できないと判断したことよるのですが、それとは別に、所謂「お気持ち」の面で決定打となったのは、「ああ、俺は俺が思っていたよりずっと、演劇が好きだったんだなあ」という思いでした。

演劇とはまさに、不要不急の濃厚接触です。しかしそれこそ人間ではありませんか。つまり僕は、「演劇やろう、やりたい」と思ったからこの上演をやめるのです。不要不急の濃厚接触としての矜持を守るためにやめるのです。すなわちこれが戦略的撤退です。

だから我々は、演劇をやります。ひとまず次回は2020年12月。既に上演に向けての制作は始まっています。もちろん、COVID-19の動向にも注意を払いながらではありますが、我々は全力で、「今」「ここ」「私」のつむぐ演劇の上演を目指していきます。いまにみてろ、世界。

転ぶなら前のめりに、背中の刀傷は恥と思えがモットーの劇団肋骨蜜柑同好会ですから(そうか?)、撤退後もおもしろを提供する準備を進めています。その一環としてまず、中止となった本公演『草苅事件・第二版』のお弁当を発売致します。お弁当?何言ってんだ、と思われるかもしれませんが、映像や配信での上演ではない、「上演のテイクアウト」の方法を考えたときに、「演劇はお客様の記憶の中で完結する」ということに思い至りました。であれば。〈実際の上演が仮に無かったとしても、上演の記憶さえあればその演劇は有ったと言えるのではないか〉?そういうわけで我々は記憶を売ることにしました。架空の記録を。上演の記憶を。皆様の頭の中で、架空の公演となってしまった『草苅事件・第二版』を、再生していただけたら、うれしいです。お品書き、販売方法、お値段などは追ってお知らせ致します。

また、『草苅事件』のLINEスタンプもこっそり発売開始致しました。
こちらからご購入いただけます。

昨年夏の『ダブルダブルチョコレートパイ』や冬の『殊類と成る』の映像も、やっと発売開始、発送の目処が立ってきました(長らくお待たせして本当にごめんなさい、もう少しなんです……)。

これは自粛ではありません。勝つための撤退です。負けないための退却です。今は薪に臥し胆を嘗めようとも、必ず皆様の前にまた現れます。これから冬の本公演にむけて、我々はまた、我々のやり方で、おもしろコンテンツを少しずつ出していきたいと思っています。随時更新していきますので、少しの間、お待ちいただけると幸いです。

がんばります。がんばりましょうね。

劇団肋骨蜜柑同好会
フジタタイセイ

Information, その他


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